ARIA THE NATURAL_TV04
第4話「その ネオ・ヴェネツィア色の心は…」
皆様は今年、お花見に行かれたでしょうか。私の職場は山の上の方にあるのですが、坂道の両脇にはソメイヨシノが咲き誇っていました。既に散ってしまいましたが、満開の桜の道をバスの窓から眺めるだけでも、春の日和を感じられたものです。
そして物語の舞台、「ネオ・ヴェネツィア」もいよいよ春。「灯里」も「アリア社長」も、訪れた春を満喫しているようです。
うたた寝を「アリア社長」に起こされた「灯里」。あくびをしながら階段を下りる彼女の元に、郵便屋さんの声が聞こえます。
「いよう、起きたかい?」
恥ずかしいところを見られたと頬を染める「灯里」に、郵便屋さんはひとつ頼み事をしにやって来たと話します。
「・・・実は、おっちゃんのところのゴンドラ、穴が空いちまって修理に一日かかるらしくてよ・・・。で、できたら明日は嬢ちゃんのところの船を一日貸し切りさせてもらって、郵便を配ろうと思ってな」
「灯里」から郵便屋さんの申し出を聞いた「アリシア」、快く応じたいところですが、なんと彼女のゴンドラは予約で一杯。
まだ「シングル」の「灯里」では、ひとりでお客様を乗せることは許されません。仕方がないと納得する郵便屋さんですが、仕事と言うよりは生き甲斐の郵便配達を行えない寂しさに、ひとり肩を落とします。
「・・・灯里ちゃん、たまには自主練習の代わりにいつもと違う人に指導して貰う・・・というのも、いいんじゃないかしら。・・・たとえば、郵便屋さんとか」
寂しい背中を見かねた「アリシア」の素敵なアイデアに、なるほどと喜ぶ「灯里」と郵便屋さん。かくして「アリア社長」も乗せた「ARIA COMPANY」郵便船の誕生です。
※料金を頂かないとは実に気前の良い「アリシア」。でも確かに郵便屋さんのお手伝いをすれば「灯里」も細かい道まで憶えることが出来そうです。ナイスアイデア!(^_^)。
「ああ、ひょっとして長老がよく話しているウンディーネさんですね。さあ、中へ」
翌日、ゴンドラで郵便局へと顔を出した「灯里」と「アリア社長」。郵便屋さんの本名さえ知らない彼女でしたが、優しい局員が郵便屋さんの元へと彼女を案内してくれました。
「よーし、出発進行っ!」
郵便屋さんの帽子をかぶせて貰った「アリア社長」。「灯里」も一緒に朝の体操を終え、いよいよ郵便配達へと出発。行く先々で郵便ポストを見つけると、巧みにカギ先のついた棒を操り、船上から郵便物を入れ替えるテクニックを見せる郵便屋さん。感激する「灯里」と「アリア社長」に郵便屋さんは持っていた棒を差し出します。
「嬢ちゃんも、いってみるかい?」
試しにと、棒を持たせて貰う「灯里」ですが、その手つきは危なっかしい限り。「初めてにしては上手いものだ」と褒めてくれますが、やはり餅は餅屋といったところでしょうか。
※先がしなる特製の郵便棒。柔軟性で重い袋を支える仕組みでしょうが、その分、操作は難しそうですね。
「さてと、もうひと頑張りするか。午後は配達もあるからよ」
美味しいお弁当で力を蓄えて、午後の配達へと出発しようとする「灯里」と郵便屋さん。ところが、「アリア社長」の姿が見せません。
「どうしました、アリア社長?」
ふとみると「アリア社長」は郵便を出しに来た少年を出迎えていました。(少年は得体の知れない生き物に怯えていましたが。(^^;)。)
「手紙を出すのかい・・・どうした?」
郵便屋さんの言葉に持っていた封筒を大事に握る少年。彼はこの封筒をすぐに届けたいと郵便屋さんに伝えます。
「ふむ・・・今日の受付は終わっちまったから、早くても明日の配達だな」
その言葉に「それじゃあ間に合わない」と俯く少年。「灯里」が差し出し先を問いかけると、少年はぽつり、ぽつりと話し始めました。
「もう式が・・・先生の結婚式が始まっちゃったから・・・」
「結婚式」・・・幸せな言葉とは裏腹に表情を落としたままの少年。「お祝いの言葉?」と「灯里」が尋ねると、彼はそれだけではないと答えます。
「・・・おめでとうって書いたけれど・・・ごめんなさいも書いた。・・・先生が学校を辞める前に合唱大会があったけれど・・・俺、出なかったんだ。・・・合唱大会の間、ずっと音楽室に閉じこもって、先生を困らせて・・・。お別れ会の日も、つい『先生なんかいなくなって清々する』って言っちゃって・・・俺、先生の涙・・・初めて見ちゃって・・・」
少年の独白に、かける言葉も見つからない「灯里」。すると、それまで黙っていた郵便屋さんが手紙を教会へと届けてやると彼に伝えます。
「ただし・・・お前さんも一緒にきな」
※ふんわりほわほわな「ARIA」の世界に、珍しく影が訪れます。それでも「灯里」は照らすことができるのでしょうか・・・。
「ARIA COMPANYのウンディーネ、水無灯里です。あなたは?・・・空(そら)くん、良い名前だね」
「空」の緊急事態に「逆漕ぎ」の奥義で急ぎ、教会へとゴンドラを進める「灯里」。祝福の鐘が鳴り響く頃、ゴンドラは無事に教会へとたどり着きました。
「よっこらしょっと。・・・それじゃあ、届けてくるからな」
同僚や生徒達の祝福の中、新郎と共に歩みを進める新婦「綾乃」。その道の向こうでは、おめかしをした「晃」と「藍華」が、オープンカーならぬ「姫屋」のゴンドラにて新郎新婦が乗り込むのを待ちかまえます。
「・・・あっ」
そこへ封筒を持って姿を表す郵便屋さん。お祝いの席からは少し浮いたその姿に、新婦も足を止めました。
「郵便です。・・・差出人は空くんです」
意外な教え子の名前を聞いて、封筒を開ける「綾乃」。そこには精一杯丁寧に書かれた「空」の気持ちが詰まっていました。
『先生、いつも困らせてごめんなさい。・・・お別れ会の時、非道いことを言ってごめんなさい。・・・清々するなんて嘘をついてごめんなさい。・・・本当は俺・・・先生のこと大好きです。もうお別れだと思うと寂しくて・・・おめでとうが言えなくて、ごめんなさい。先生、結婚おめでとう。幸せになってね。 空』
時には雄弁な物言いよりも、思いが込められた手紙が、より多くの気持ちを伝えます。嬉しさに涙を一筋、頬を濡らした彼女は、郵便屋さんにお礼を言うのでした。
※久しぶりの「逆漕ぎ」。そのかいはありましたね。「空」の気持ちを過不足無く、しっかりと配達先へ届けきる。郵便屋さん、そして「灯里」、格好良いです。(^_^)。
「配達完了。・・・先生、喜んでいたぜ」
郵便屋さんに帽子をかぶせて貰った「空」。その視線の先には彼の敬愛する教師の姿が見えました。
「・・・行こう」
今ここで、少年を教師に会わせたい。自然と「灯里」は「空」の腕を掴みます。
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「・・・空くんの本当の優しさが、手紙の一文字一文字から伝わってくるみたい・・・。私はあの子にとって、良い先生だったのかしら」
「晃」の操舵するゴンドラで、再度手紙を読み直す「綾乃」。自分自身へ問うた言葉を「藍華」は「そうみたいですよ」と返します。
「えっ?・・・あっ・・・空くん・・・」
「先生・・・」
互いに並んだゴンドラ、数メートルの距離。その距離を「綾乃」は、「空」は叫びます。
「空くん、手紙ありがとう!・・・とっても嬉しかった!・・・お返事、書くから!」
「おめでとう先生!元気でね・・・さようならぁっ!」
今この時の流れが、ふたつのゴンドラを離してゆきます。それでも確かに「空」の言葉は、「綾乃」の下へと届きました。お礼を言い、岸にあがった「空」に、「灯里」は微笑みかけ、「アリア社長」は手を振ります。そして郵便屋さんは、いつも通りに郵便配達を続けます。その手紙が、また人々の思いを届けるから・・・。
※かくして見事に「空」は晴れ渡りましたとさ。(^_^)。
「最後の配達、終了。・・・ありがとう、嬢ちゃん」
一仕事を終えて、ゴンドラでお茶を頂く「灯里」と郵便屋さん、そして「アリア社長」。
「・・・もったいなくてお休みできないという郵便屋さんの気持ちが、少しわかった気がします」
人と人とを繋ぐ手紙。テラフォーミングが当たり前の世界の中で、その文化は今も続いています。
「・・・この街の連中は、いまだに手紙にこだわっているからな。わざわざ面倒なことをやりたがるんだよ。・・・まったく不便でなんねぇ」
冗談めかした郵便屋さんの言葉に「灯里」は苦笑します。そう言う彼の顔は、とても面倒を嫌がっている人には見えません。
「・・・手紙という奴は、受け取ったときは嬉しくて、開けるときは宝箱みたいでよ、心が子供みたいにはしゃぐんだ。・・・でもって中に入っているのが手紙という形をした『相手の心』なんだよな。そいつは内容によっては、宝物にもなりやがる。・・・一生手の触れることの出来る『心』という宝物にな」
いつになく饒舌な郵便屋さんの言葉を聞き入る「灯里」。彼女の人生の何倍もの時間を郵便配達に費やした、彼の言葉は「灯里」の心へと広がっていきます。
「・・・それによ、手紙は時間とか場所を飛び越えて、書いた人を連れてくることもできるからな」
時間と場所を飛び越える・・・その言葉に、今はまだピンと来ない「灯里」。それでも解答を急ぐことなく郵便屋さんはいつもの笑顔で微笑んだままです。
「ネオ・ヴェネツィアも手紙と似ていますよね。・・・この街を造った人達の心には、いつでも手で触れることが出来ますから。・・・私、わざわざ面倒なことをしたがるこの街が・・・とっても大好きみたいです」
※「恥ずかしいセリフ、禁止っ!」・・・とりあえず言っておきました。(^^;)。
「えぇっ・・・あ、アリシアさん・・・これ・・・」
翌朝、寝ぼけ眼で起き出した「灯里」の目を一通の郵便が覚まさせました。
「・・・郵便屋さんのおじさんからだ・・・」
深呼吸をして、ゆっくりと封筒を開いていく「灯里」。昨日聞いたように、それはまるで宝箱のよう。
『嬢ちゃんへ。 昨日はありがとさん。 郵便屋のおっちゃんより』
短い文章、短い言葉。それでも確かに、彼女の前に郵便屋さんの笑顔が広がります。
「・・・郵便屋さんの言ったとおりだ。手紙は、書いた人を連れてくるんですね」
にこにこしながら話す「灯里」の言葉を、「アリシア」は不思議そうに聞いているのでした。
「ARIA THE NATURAL」には、お茶がよく似合いますね。ゆっくりと蒸らして薫りを高めたダージリン。ミルクを入れて、お好きな量の砂糖を溶かして・・・。さあもう一度、「ARIA THE NATURAL」と一緒にお楽しみください。
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